昭和懐古~絶滅危惧物・其の六~宮造りの癒しの空間
2023.03.04
上野不忍池の畔にある河津桜も花開き、春の気配が感じられるようになって来ました。
過ごしやすい日も増えてきましたが、寒の戻りもあり、まだまだ気温の変化には油断はできません。
先月には、東京にも大雪警報が発令されました。
都心ではそれほどの積雪もなく助かりましたが、霙交じりの雨降る帰路は、ひときわ温かいお風呂が恋しくなるものです。
湯船に浸かり、冷えた体と一日の疲れを癒すお風呂は格別な場所です。
現代人にとって、お風呂は単に体を清潔にするだけではなく、心身をリフレッシュする場として不可欠なものとなっています。家づくりにおいても、浴室にこだわる方は多いようです。
保温機能、お掃除のしやすさ、マッサージ作用のある水流、リラックス効果満載のアメニティを追求した様々な設備等々、欲を言えばきりがありません。
また、メーカー各社も限られたスペースの中で、より広く、より快適な空間を提供するために、様々な工夫を凝らし、魅力ある製品を取り揃えています。カタログやショールームなどで、最新の設備やデザインを前に目移りし、なかなか決断できない方も多いのではないでしょうか。

今ではお風呂のない家など考えられませんが、1970年代前半までは浴室普及率が75%に満たなかったそうです。風呂なしアパートも多くあった時代、一概には言えませんが、4世帯に1世帯はお風呂がなかったということになります。
しかし、その当時は銭湯が多くあり、地域社会の重要な場として 賑わいを見せていました。
銭湯と言われ真っ先に思い浮かべるのは、寺社建築を彷彿とさせる”宮造り銭湯”です。


入り母屋造りの屋根が特徴で、寄棟造りの屋根と切妻造りの屋根を重ねた構造になっており、破風に施された豪華な造形や彫刻がその存在を引き立たせています。
宮造り銭湯の歴史は大正時代に遡ります。
関東大震災の復興期、被災した人々に元気を与えようと、宮大工の 技術を持った職人が建築したのが始まりのようです。
それが評判となり、東京を中心に広がり、 後に ”東京型銭湯様式”と呼ばれるようになりました。
”身を清める”との 行為から寺社に似せた外観になっているのだろうと、長年勝手に想像していましたが、全くの見当違いでした。
内風呂が普及するまでは、銭湯は日常の場であり、庶民生活にはかすことのできない一部となっていましたが、時代の推移とともに銭湯の必要性が薄れ、銭湯に求められるものが ”癒し” へと変化してゆく中で、スーパー銭湯や駅前温泉の台頭により、従来の銭湯は年々その数を減らしてゆきます。
宮造り銭湯もまた、時代の流れに逆らうことはできず廃業するものも多く、一部は収益性を重視したビル型銭湯へと変わってゆきます。
反面、その特異性ゆえ、日常的なものから非日常的な場所へと 図らずも転化し ”宮造りの癒しの空間” として認識が新たになっているようです。
小金井公園内に ”江戸東京たてもの園” いう所があります。 歴史的建造物が立ち並ぶなか、”子宝湯” という典型的な宮造り銭湯が 移築されています。
暖簾をくぐると、木製の下駄箱や番台、富士山の油絵、木桶、カランその他懐かしいものが当時のままの姿で出迎えてくれます。

数は少なくなったとはいえ、宮造り銭湯は文化的・建築学的価値からも絶滅を危惧することは杞憂かもしれません。
むしろ湯船に浸かり折りたたんだタオルを頭に載せ、「あ~極楽、極楽」としみじみと呟いている光景や種族の方が、絶滅に近いしみじみと呟いている光景や種族の方が、絶滅に近いのかもしれませんね。

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