千北 正 ブログ

『6坪でも豊かな空間 ―塔の家― 』

2019.02.20

T&Wで意匠デザインを担当しております、チーフデザイナーの千北 正(チギタ タダシ)です。

今回紹介させて頂くのは、4年前に81歳で他界された、建築家 東 孝光 先生が設計された自邸兼事務所である『塔の家』です。東京・神宮前のキラー通りに建てたこの都市型住宅は、「狭小住宅」の先駆けとなった、先生の出世作です。 

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建築家 東孝光(あずま たかみつ、1933920日 〜2015618日)

1933年大阪生まれ。大阪大学工学部構築工学科を卒業後、郵政省建築部、‘60年に坂倉準三建築研究所入所(1966年 新宿西口広場の実施設計・監理で参画)を経て、1968年に独立。1985年大阪大学工学部環境工学科教授に就任。1995年「一連の都市住宅」で日本建築学会賞作品賞を受賞。大阪大学退官後19972003年、千葉工業大学工業デザイン学科教授。大阪大学名誉教授。2015年肺炎で死去(享年81)。先生のトレードマークの青シャツは、大変印象的で、今でも鮮明に思い出されます。

先生の主な著書には、『日本人の建築空間』(彰国社、1981年)、『都市住居の空間構成』(鹿島出版会、1986年)、『「塔の家」白書』(住まいの図書館出版局、1988年)、『都市・住宅論』(鹿島出版会、1998年)などがあります。

今回のブログ更新のきっかけとなったのは、昨年201811月の朝日新聞朝刊のリレーおぴにおん「ちっちゃな世界」に記載された、東孝光 先生の長女で、建築家の東 利恵さんの記事を読ませて頂いた事です。見出しは、6坪でも豊かな空間「塔の家」、と題されていました。
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建築家 東 利恵(1959年大阪生まれ. 1982 年 日本女子大学家政学部住居学科卒業. 1984 年 東京大学大学院修士課程修了. 1986 年 コーネル大学建築学部大学院修了. 現在 東 環境・建築研究所 代表取締役)

http://www.azuma-architects.com/

東 孝光 先生は普通の家として造ったそうですが、当時は「実験的な住まい」として高く評価を受け、「狭小住宅」の代表的建築として『塔の家』と呼ばれるようになりました。
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当時は、周囲に高い建物が少なく、塔のようだったのでしょう完成から40年以上が経つ建物でありながら 現在も見学者が後を絶たないほど、建築史上において多くの建築・建築家に影響を与えた建物の一つとして知られています。玄関を除けば、トイレも浴室も含め扉が一切なく、間仕切りもない。吹き抜けで開放的な空間設計が狭さを感じさせず、都心に住む醍醐味を満足させ、東孝光 先生の師である坂倉 準三 先生の師であった、ル・コルビュジエ(建築家 1887-1965)の主張する「新しい建築の5つの要点(ピロティ上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由な立面)(近代建築の五原則)を踏まえている、とも言えましょう。
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この『塔の家』は、各階が1層1室なので、視線は遮られています。その分、階段を上がる音や、階下からの話し声など、音が人の気配を伝える重要な役割を果たしていたそうです。

201895日にYouTubeに「塔の家」を東孝光 先生の長女で、建築家の東 利恵さんがナレーション(中国版で、映像下部のテロップの日本語訳に直訳誤字等がありますが、気にしないでください。)された動画が公開されていますのでご覧ください。
https://youtu.be/xasKnR95r4g 
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私自身も、50年数年以上も前の事になりますが、小学校低学年の頃に住んでいた、長崎県平戸市の父親の実家(自宅兼店舗併用工房)の事を思い出します。この実家の木造2階建の町家は、かつて置屋(おきや)として使われた所をリノベーションしたものでした。 当時、芸者さん送迎用の人力車が残されていたのを思い出します。狭い間口に対し奥行きが深く、通り庭(土間)を介し、坪庭(苔庭)へ張り出した縁側の下には、金魚が泳ぐ池が配されていました。通り庭(土間)の上部は吹き抜けになっており、最上部の天井には小さなトップライトがあった町屋でした。その祖父は京都で修業を積んだ、仏壇・仏具の制作をし、漆職人でした。
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通りに面する町家は主なる玄関もなく、表の商店(仏具店)入口から裏口へアクセスできる通り庭(土間)と、その上部の吹き抜けは、上下階を介して、早朝から祖父母や両親が土間を歩く音や、通り庭(土間)を介して、隣近所の来客との話し声や、使用人の作業等の音が、日常生活の「音の気配」が思い出されます。

             
都心の狭い敷地にどのように住まおうかと考えたとき、町屋が建てられるほど広い敷地ではありません。そこで建てたのは、『塔の家』と呼ばれるものでした。町屋の構成と違いますが、縦(上部)にながい形の住宅にしたのです。町屋の空間構成と同じです。全体を縦に起こし、動線となる通り庭(土間)の部分を階段室とすればよいのです。「平面図」としてではなく、「断面図」として読めば、このようになることが分かります。
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『塔の家』では、日本の伝統的都市住宅である町屋の空間構成を用いて、現代の、さらに悪化する都市条件に合わせて都市住宅をつくったのだと言えるでしょう。結果、この『塔の家』は、階段が視線を遮り、プライバシーを保っています。現在の住まいは、扉を閉めてしまうと、人の気配を感じません。この『塔の家』の良さは、小さいとか狭いとかと言う感覚とは異なるような気がします。空間とは小ささや狭さで豊かさを失うのではなく、「豊かな空間」であれば、2次元的な広さは意識しないのではないかと思うのです。その意味で、この『塔の家』を通して、豊かな空間とは何かをあらためて気づかされた次第です。

私共T&Wが扱う都心の狭小地、変形地に設計・施工する住宅も、「都心に住まう狭小住宅を豊かに住まう」をテーマに2次元の平面的間取りも大切ですが、3次元の縦割りを意識した断面の立体的プランづくりを大切に、設計・デザインに活かしてゆきたいと思っております。

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